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About our research
​研究

 放射線の計測には様々な検出器が用いられていますが、その主流は固体検出器です。一般的に放射線は電子に変換してから読み出されます。この変換過程において、一度蛍光体を用いて光子に変換した後に、光検出器などで電子へ変換されるものと、半導体を用いて直接電子に変換するものがあります。我々の研究室では、上記の蛍光体を使用したシンチレータやドシメータ材料に関する研究を行っています。

 私は、ガラス蛍光体を用いた放射線検出器の材料開発及び物性研究を主に行っています。現在の実用化されている放射線検出器に使用されているシンチレータ及びドシメータ材料の殆どは、単結晶とセラミックスです。一方で、ガラスは材料設計の自由度が極めて高いという利点を有していますが、発光量において単結晶やセラミックスに劣ることから、これらに置き換わるガラス材料がない現状です。

 新しいガラス放射線検出器材料の開発を目指し、通常の溶融法に加えて、フローティングゾーン(FZ)法や放電プラズマ焼結(SPS)法を用いた高融点蛍光ガラスの作製を行い、その光学特性、放射線応答特性等を評価しています。​

RPL in phosphate glass
イメージングや飛跡検出用途に適用可能な重元素系かつ低フェーディングのRPL材料の開発

 X線により生成した励起電子の一部が、発光中心に移動する途中で捕獲準位に捕らえられる場合があります。この状態にある材料に熱や光で刺激を与えると捕獲されていた電子が伝導帯へ再励起され、発光中心で再結合することで発光します。再励起源に熱を使用した場合を熱蛍光(TSL)、光の場合を輝尽蛍光(OSL)と呼びます。後者のOSL現象を利用した個人被曝線量計は国内でもよく利用されています(長瀬ランダウア社製・ルミネスバッジ)。その他、我が国で広く普及しているのはラジオフォトルミネッセンス(RPL)現象を利用した個人被曝線量計(千代田テクノル社製・ガラスバッジ)です。RPL現象は放射線を照射するとその照射量に応じて新たな発光中心(RPL中心)を生じるというもので、ガラスバッジでは一度生成したRPL中心は熱によって解放するまでは安定して存在することから、繰り返しの読み出しを行うことができます。一方で、このRPL中心は母材の組成によっては非常に不安定です。浅い捕獲準位に捕らえられた電子が室温程度の熱エネルギーで再励起されることによってAg^(2+)がAg^(+)へと価数を変化し、強いフェーディングを起こす場合があるためです。そのため新規材料開発の際には繊細な材料設計が求められます。

Glass synthesized by the SPS method
シリカガラスの低温作製と放射線検出器への応用

 放電プラズマ焼結(SPS)法は機械的な加圧とパルス通電加熱とによって、焼結および接合、合成を行う加工法です。焼結の際、従来的な熱的および機械的エネルギーに加えて、パルス通電による電磁的エネルギーや試料の自己発熱および粒子間に発生する放電プラズマエネルギーなどを利用します。そのため、短時間かつ低温での処理が可能な手法です。

 シリカガラスは真空紫外から赤外域までの高い透過率を有し、低熱膨張性、化学的耐久性に優れることから放射線計測用の母材として期待できます。加えて、ガラスとしては比較的高いエネルギー輸送効率を示します。しかし、シリカガラスの軟化温度は1774 ℃と高く、従来の溶融法では高温製造プロセスを要する難点を有します。我々はSPS法を用いることで、1300 ℃での焼結により軟化温度より低い温度においてシリカガラスの作製に成功しました。

 本手法で作製した発光中心添加シリカガラスは優れた発光特性を示し、放射線照射時にも高い発光量が得られることがわかっています。(図参照)

Glass synthesized by the Floating Zone method
X・γ線検出用重元素系ガラスシンチレータの開発

 ガラス をX・γ線用シンチレータとして用いる点で最大の障壁の一つが、実効原子番号(Zeff)の低さにあります。ガラスは3または4配位の酸素多面体がそれぞれの頂点を共有してネットワークを形成し、ガラス化します。このような単独でガラスネットワークを構築し得る酸化物は網目形成酸化物と呼ばれ、SiO2やP2O5、B2O3などの軽元素がほとんどです。ガラスはこれらの酸化物が構造の基軸となっているため、実用シンチレータ材料の多い単結晶と比較すると必然的にZeffは低くなってしまいます。この問題を解決するためには材料組成中に重元素を含ませ、高いZeffを持たせる必要があります。高いZeffを有すれば、X・γ線を効率良く吸収でき、検出効率は向上しますが、シンチレータとして実績のある希土類やHf等の重元素で構成されるガラスを作製するためには高融点な重元素酸化物を溶融することができる溶融炉が必要です。

 上記の問題解決のため、我々はFZ法集光型赤外線加熱炉を用いたガラス作製法を採用しています。FZ法は本来、単結晶育成に用いられる手法ですが、合成時の試料の取り回しを工夫して溶融・急冷する事で、下図のようにガラスを作製する事が出来ます。

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